スクエア・エニックスと言えば、ドラゴンクエスト、ファイナルファンタジーシリーズを作っている会社だ。
有名な話なので知っている人も多いかもしれないが、元々はスクエアとエニックスという別々の会社だった。
1980年代にはどちらの会社もPCゲームをメインで開発していた。
そんな時代の名作PCゲームを紹介しよう。
5位 ALPHA(アルファ)
開発元:スクウェア
発売元:スクウェア
ジャンル:アドベンチャー
機種:PC-8801、PC-9801、X1turbo、FM-7
『デストラップ』、『WILL-デストラップ2』に続く3作目となるコマンド入力型アドベンチャー(続編ではない)。
1枚絵を用いた作品が多かった当時、美しいアニメーション処理を使用して話題になった作品だ。
シナリオは田中弘道、音楽は植松伸夫、パッケージデザイン&広告イラストをいのまたむつみが担当。
太陽系を探査し尽くした人類は、新たなる開発の地として太陽系外の惑星に向ける。その距離なんと10.7光年。
宇宙船の航行スピードで数百年の歳月を費やすため、宇宙船の中に移住区を設けて、自給自足しながら何世代にも渡って目指すことになった。
物語の舞台は代替わりを繰り返した数百年後、恒星間航行用宇宙船ダイダロスの船内。
夢や希望を抱いて旅立った先祖たちの気持ちもつゆ知らず、宇宙船で産まれ育った無目的な子孫たちはただひたすら怠惰な日常を送る日々。
そんなある日、移住区で大爆発が起こる。
ぬるま湯にひたり切った生活をする住民たちに対し、何者かが革命を起こしたのだ。
丘の上で移住区の爆発を目撃していた少女の姿があった。
記憶を失った少女クリス。プレイヤーは本作の主人公である彼女を導いて、何をするべきなのか思い出すため船内を探索するという物語なのだ。
本作はテキストパーサー型、日本ではコマンド(テキスト)入力型として知られるシステムだ。
このコマンド入力型とは、予め用意されているコマンドを選択するのではなく、コマンドをキーボードで直接打ち込んで行動を起こすというもの。
「ハナス ヒト」で画面内に表示された人物と話したり、「トル カード」でカードを取ることができる(本作はローマ字でもOK)。
まあ今の世代にはまったく馴染みのない化石みたいなシステムなのは確かだ(そもそもアドベンチャー自体廃れているが…)
移動はWILLに引き続きテンキーのカーソルキーに対応。また、デストラ&WILLでは「動詞+名詞」の順だったが、本作ではどちらからでもOKになった。
本作一番のウリは技術の高い美しいアニメーション演出を取り入れていることだ。
今となっては大したことのない描写だが、高速でなめらかに動くクリスの銃撃シーンは当時多くのプレイヤーを驚かせた。
また、エフェクトなど各場面の一部にもアニメーション処理が施されており、ただの一枚絵よりも臨場感が格段にアップしている。
不満点はボリューム不足と難度が高いこと。
ストーリー自体は短めで一本道、攻略情報を見ながらだと1時間前後でクリアできるだろう。
ストーリー自体は悪くないのだが、単純な場面も多くて飽きも早い。一応1場面に1個隠れキャラがあるので、その隠れキャラを探す楽しみはあった。
本作の難度がかなり高い。とにかく詰みポイントが多いのだ。
キーアイテムの没収で永久に消滅、タイプ入力のミスで進行不可などあって難しい。
攻略情報に頼らずプレイする場合、詰み対策として一定シーン毎に分けてセーブするのがオススメだ。
4位 ポートピア連続殺人事件
開発元:エニックス
発売元:エニックス
ジャンル:PC-6001(32K)、PC-6001mkⅡ、PC-8801、PC-8001mkⅡ、FM7(77)、X1、MSX、ファミリーコンピュータ、フィーチャーフォン(ガラケー)
日本初の本格推理アドベンチャー。「犯人は○○」のネタで幅広い世代に犯人の名前だけ認知されるなど、日本一犯人が有名な推理アドベンチャーとしても知られる。
推理モノである本作の目的は、主人公の刑事になって部下と共に神戸で起こった連続殺人事件の“犯人”を逮捕することだ。
神戸で殺人事件が発生する。
被害者は悪徳な金融会社として知られるローンヤマキンの社長、山川耕造。密室で謎の死を遂げていたという。
本来ならば自殺の線も考えられるだろうが、冷静に考えてあの強欲な山川耕造が自らの命を絶つなどとはありえない。
山川耕造に恨みをもつ人間は山ほどいるのだから、他殺の線が濃いのは誰の目にも明らかなのだ。
本庁捜査一課から派遣された主人公は部下のヤスと共に、殺人事件の解明へとのりだしていく。
しかし、主人公は予期できなかった、この事件の捜査が連続殺人事件へと発展していくことに…。そして、すべての謎を解き明かしたとき悲しき真実が待ってることに…。
キーボードでコマンドを打ち込むコマンド入力型。
入力したコマンドは「部下への命令」として、命令を受けたヤスの視点でセリフが展開する。
上司と部下の関係なので動詞は「イケ」、「サガセ」など決まった命令口調で認識。PC-6001以外のパソコン版は、「ヨベ」、「シラベロ」、「キキコミ」などの基本コマンドが予めファンクションキーに割り当てられている。
ちなみに場面と関係ないコマンドや「アホ」に反応したりするなど、ヤスのリアクションは見てて楽しいものがある。
欠点はセーブ機能どころかパスワードすらないという重要なポイントが不親切設計。
適切なコマンドを探すのに時間を取られるため、スムーズに進めるよう攻略手順をメモしておくと時間短縮に繋がる。
本作は『ドラゴンクエスト』の生みの親である堀井雄二の初期作品で、PC60&PC80版は堀井氏がシナリオからプログラミングまですべての作業を一人でこなしている(当時は一人で制作するクリエイターも多かった)。
ポートピア面白いんだけど、画面数は少ないし、グラフィックもさほど上手くない。しかも、音も効果音のみでBGMがないから物足らなさを感じる。
それでもプレイした人間を惹きつけさせたのは、堀井氏が書いたシナリオの発想・構成のうまさが当時どの作品よりも秀でていたからだろう。
あっと驚くような仕掛け、敷かれた伏線や二転三転する展開、当時ミステリー界隈では禁じ手と言われていた意外な結末。
堀井氏による斬新な発想とよく練られた構想が、国内産の本格推理アドベンチャーを開拓し、探索・冒険モノが主流だった同ジャンルに新しい風を吹かせたゲーム業界への貢献度は計り知れない。
早稲田の漫研出身。当時は、漫画原作、ギャグ作家、雑誌のフリーライターとして活躍していた堀井氏。20代後半にパソコンと出会い、「第1回エニックス・ゲーム・ホビープログラム」で入選プログラム賞を受賞した作品『ラブマッチテニス』でプロデビューを果たす。
「次回作はアドベンチャーで」とエニックスからの依頼によって制作された2作目『ポートピア連続殺人事件』を発売し、合計1万7000本を売り上げた(MSXを除くPC版)。
推理小説的本格アドベンチャーとして話題を呼んだ『ポートピア連続殺人事件』だが、その知名度を飛躍させたのは、何と言ってもファミコン版の存在が大きいだろう。。
これまでなかった推理小説の手法にした本格的な謎解きモノがファミコン世代に受け入れられ、ファミコン初のアドベンチャーとして販売本数60万本を超える大ヒットとなった。
なお、当時ファミコンにハマっていたビートたけしも『ポートピア連続殺人事件』をプレイしていたことで有名。
自身のラジオ番組(ANN)で軍団と一緒に実況放送し、たけし氏が禁忌とされていたネタバレ発言をしてしまうハプニングもあった。
しかし、80年代カリスマ的人気を誇っていたたけし氏のおかげで売上が伸びたのはメーカー(ファミコン版はチュンソフト担当)としてはありがたい限りだろう。
ところで堀井氏がコンテストに応募した理由だが、ジャンプ編集部から「エニックスが主催するコンテストの取材をしてきてほしい」と依頼されたのがきっかけ。編集部から資料として応募用紙を渡された時に「せっかくだから自分も応募してみよう」と思い至り、個人で楽しむため趣味で制作したテニスゲームを応募したのだった。
パソコンを覚えて1年も満たずに入選するのだから、さすが後に数々の名作を手掛ける天才クリエイターである。この堀井氏が受賞した『ラブマッチテニス』だが、難易度の異なる女子大生たちとテニスをする内容になっている。
ちなみにこのコンテスト第1回の応募総数は約400作品あり、その中から入選したのは13作品。最優秀プログラム賞を受賞したのは森田和郎の『森田のバトルフィールド』とのことだ。
3位 ウイングマンSpecialさらば夢戦士
開発元:エニックス
発売元:エニックス
ジャンル:アドベンチャー
機種:PC-8801mk2SR以降、MSX2
83~85年まで週刊少年ジャンプで連載されていた桂正和原作の人気コミック『ウイングマン』を題材にしたアドベンチャーゲーム。
同シリーズを制作してきた開発チームTAMTAMの解散・引退に伴い制作された最終作。ゲームオリジナルストーリーだが、エンディングは原作のラストに近い形になっている。
ヒーローに憧れる中学生の広野健太は、異世界から来た少女アオイが持つ「ドリムノート」の力で、自作のヒーロー「ウイングマン」に変身する能力を身に着けてしまう。
悪の帝王リメルと宿敵キータクラーを倒した広野健太とウイングガールズは、郊外でヒーローアクション部の合宿を行っていた。そこへ、新たな敵ライエルの魔の手がのびてくる。
ライエルの命令を受けて合宿所に向かった第一の刺客ナース。はたして、ウイングマンはライエルの陰謀を打ち砕き、地球を守ることができるのか?ウイングマン・シリーズ最後の物語が幕を開ける。
86年発売の『ウイングマン2-キータクラーの復活-』で物語の完結。これを最後にシリーズは終わるはずだった。
しかし、ウイングマン・シリーズのファンからの熱き続編の要望がエニックスを突き動かし、TAMTAMの引退作としてウイングマン続編の制作が決定する。
本作は前作のシステムをそのまま利用しているのが特徴。
シリーズを通じてほぼ同じシステムを採用することで、目新しさよりもストーリーを楽しんでもらうのが作品のコンセプトとなっている。
断じて手抜きなどではない(と思う)。
コマンドをキーボードで打ち込むコマンド入力型。
このキーボードで直接入力するタイプは、今の時代はもちろんのこと、当時の感覚からしても少し面倒な作業だった。
どこかを見たい、何かを取りたい、だけどその名前がわからない…など、特に名詞の名前がわからない時は本当に悩まされていた。
そんなプレイヤーのお悩みをアシストするため導入されたのが白い手のカーソルなのである。
「取る」などのコマンドを入力後、リターンキーを押すと白い手のカーソルが出現。このカーソルで対象物を指すと、その対象物の名前を自動で入力してくれるとても便利な機能なのだ。
ウイングマンは地球を守る正義のヒーロー。桂正和作品の可愛い女の子たちと楽しく会話をするだけのアドベンチャーと思ったら大間違い。突然襲いかかってくる悪の怪人とも戦わなくてはならないのだ。
というわけで、ウイングマン・シリーズは敵と戦う戦闘モードがある。
夢あおい(アオイ)の「ケン坊、敵よ!」と共に、健太が「チェイング!」と叫んでウイングマンに変身。敵とのアクションバトルがスタートする。
簡素なアクションゲームといったところだが、原作の技が豊富で意外と楽しいのも確か。アクション苦手な人でも大丈夫なよう設計されているので、ゲームオーバーになる心配もナシ。安心して挑戦することができる。なお、本作からウイングマン最強の必殺技「ヒートショック」が追加されている。
大きく分けてAパート、Bパートの2章仕立て。Aパートで必要なフラグ(アイテム含む)をすべて回収するとBパートに突入できるわけだが、このフラグ回収がかなり大変。直接入力して適切なコマンドを探さなくてはならないのに地味にやることが多い。進めるのも一苦労するが、それだけやりごたえのある作品だということだ。進行と関係ないコマンドも多く、それらを探す楽しみもあってボリューム満点。中には桂正和作品ならではのあんなシーン、こんなシーンも……。
ちなみにCキーを押しながら立ち上げるとAパートラストから始まる。また、Eキー押しながら立ち上げるとエンディングが流れる。
原作を再現した美しいグラフィックが好評のウイングマン・シリーズだが、最初は漫画から絵を拾ってグラフィックを制作する作業に大苦戦。1画面が完成するのに1週間もかかったそうだ。しかも、その出来栄えがあまりにも酷かったため、ウイングマンを担当していた鳥嶋和彦氏にキツいダメだしをされる始末。そこで、ちゃんとイラストレーターに頼んで描き起こしてもらい、原作を再現した美しいグラフィックが完成するに至ったのだ。
ちなみにグラフィックは本作よりも、前作のほうがキャラデザの原作再現度が高い。なぜか絵柄が変更されてしまった本作だが(イラストレーターの変更?)、これはこれで十分許容範囲内。グラフィックも綺麗で見やすいので、よほどのこだわりがない限り問題ないだろう。
2位 バーニングポイント
開発元:エニックス
発売元:エニックス
ジャンル:アドベンチャー
機種;PC-8801mkIISR以降
まるで小説やドラマを見てるかのような従来のタイプとは毛色が違う推理アドベンチャー。
演出とシナリオ、ユーザーフレンドリーに重点を置いたボリュームとクリアのしやすさがウリだ。
物語の舞台はアメリカの西海岸。
16年ぶりの故郷の町で探偵事務所を開業した青年マイク・スティール。ロス・マクドナルドの小説に憧れ、2週間前にライセンスを習得したばかりの新米探偵だ。
徹夜で刷った宣伝チラシを同じビル1階や近所の顔馴染みのお店に置かせてもらい、彼の夢の探偵ライフがスタートする。
開業して3日目、初めての依頼が舞い込んでくるが、それは驚くことに有名な私財家夫妻からだった。
ホテル火災に巻き込まれた孫娘ヘレンの遺体が本人ではないかもしれない。死体鑑定が終わる1週間の間にヘレンの生死の手がかりを調べてほしい。それが夫妻からの依頼内容だった。
仮に遺体がヘレンではなかったとしたら、その遺体は誰なのか?なぜヘレンと入れ替わったのか?そしてヘレン本人はどこに消えたのか?
好奇心にくすぐられたマークは、夫妻の依頼を即決するのだった。
物語は上述の事件を軸にした6章仕立てとなっている(各章ごとにactで細かく分けられている)。
プレイヤー側が行うゲーム内の推理は特に難しいというわけでもなく、行き詰まりやコマンドの選択を間違えてもフォロー完備でゲームオーバーする心配なし。また、フラグ回収が済んだら次に進めるよう設計されていて途中で詰むこともない。推理アドベンチャーというより探偵モノの海外ドラマに近い感覚で最後まで楽しめるのだ。
オシャレでさわやかな雰囲気を感じさせる世界観にノスタルジックなアメリカンサウンドがとても心地よい。
臨場感ある効果音や漫画のフキダシ方式のメッセージウィンドウが作風とマッチしていてイイ味を出している。
キャラクターたちが実際にその場で話している雰囲気にこだわって制作されただけあって、セリフに合わせて変化する表情、話す速度と間、感情による文字の大きさなど“会話”の演出がとにかく細かい。
オチも含めた総合的な評価で言ったら完成度の高い良質なシナリオ。伏線の敷き方も上手い。
同じコマンドを選ぶと話を要約してくれたりと、プレイヤーへの遊びやすさを配慮して丁重に作られている。
惜しむらくは、トリックとアリバイ崩しに少々強引さを感じるのと、無名の新人探偵にみな協力的などリアリティに欠けたご都合主義な展開だろうか?
あと親切設計すぎるがゆえに、カンのいい人なら早い段階でオチが読めてしまうのも残念な点の1つだ。
ちなみにクリアするとミュージックモードが開放される。
本作のミュージックコンポーザーはアーケード版『熱血硬派くにおくん』と同じ人物とのことだ。
1位 ジーザス
開発元:エニックス
発売元:エニックス
ジャンル:アドベンチャー
機種:PC-8801SR以降、X1turbo、FM-77AV、MSX2、ファミリーコンピュータ
「難しい=面白い」と考えられていた時代、「誰にでも最後まで簡単に行けてその過程を楽しんでもらう」をコンセプトに制作された作品。
パソコンで見せる映画を目指した良質なSFストーリーは多くの興奮と感動を呼び、エニックス不朽の名作として語り継がれている。
西暦2061年、ハレー彗星が太陽系に接近していた。
フィリピン大地震、世界的な寒波、セントヘレナ噴火、日本海溝陥没など、異常気象・自然現象が地球規模で次々と起こる。
異常気象はハレー彗星が引き起こした厄災。このままではハレー彗星と共に来たる悪魔によって人類は滅ぼされると告げる預言者も現れ、人々は不安の渦に飲まれていた。
その頃、宇宙では2機の有人探査機によるハレー彗星の調査が行われようとしていた。
宇宙船スカイラブJESUSから1号機「コメット」、2週間遅れで2号機「ころな」、2機の探索機が発進される。
先発したコメットが、ハレー彗星のガスの採取に成功し、プロジェクトは順調のうちに終わるかのように見えた。
ところがその翌日、緊急事態を知らせる非常ベルがころなの船内に鳴り響く。コメットからの通信が途絶えて連絡がつかなくなったのだ。
原因を調査すべく、ころなはコメットの元へと向かうのだった……。
コマンド選択型アドベンチャー。
プレイヤーは2号機ころなの乗員メンバー武麻速雄(むそうはやお)を操作してストーリーを進めていく。
きちんとフラグを回収することでストーリーが進行するタイプ。ゲームオーバーは1ヶ所あるのみで(ネタバレになるので割愛)、途中で詰んで進行不可になる心配はない。
ストーリーは1本道でエンディングも1つのみ(とある場面で誰と組むかの選択があり、組む相手で微妙に変化する)。謎解きはそこまで複雑なものはなく、誰でもクリアできる程よい難度となっている。
とはいえ、終盤の音階当てと全9問あるおさらいクイズは人によっては大苦戦することだろう。
また、少しフラグ回収が煩わしく、何をするのか分からずに行き詰まることもある。
意外なコマンドがストーリーを進めるのに必要だったりするので、根気よく試していくのが大事だ。
あと、人工知能のFOJYは重要なヒントから小粋なジョーク(?)まで色んなことを話してくれる速雄の頼れる相棒。行き詰まったとき、FOJYとの会話が攻略の糸口になることもあるのだ。
「これまでのような謎解きゲームではなく、本当の意味で映画に近いアドベンチャーを作っていきたい。映画のようにストーリーで人生を豊かにするような感動を与えたい」という思いを込めて『ジーザス』は制作された。
そんな本作の魅力は何と言ってもシナリオだろう。そのストーリー性は大作映画と肩を並べると言っても過言ではない。
敷かれた伏線、美麗グラフィックとタイミングよく導入されるアニメーション処理による演出、効果的に用いれられたBGMが、ストーリーを引き立ててゲームから映画へと近づけさせてくれている。
このシナリオを書いたのが雅孝司(みやこうじ)。雑誌・テレビ・小説など手掛けるパズル作家として著名な人物である。
雅氏が特に気を使ったのはメッセージを極力、登場人物のセリフにすること。余分な文章を省いて会話形式にしたことで、ゲームの進行のテンポが良くなり、ノリを映画に近づけさせた。
ちなみに本編にバルブを使ったパズル問題がある。雅氏いわく「誰にでも解ける遊び」として軽い気持ちで入れたのだが、「バルブ問題が解けない」とエニックスに電話が殺到する羽目に…。
プログラムは芸夢狂人こと鈴木孝成。芸夢狂人といえば知る人ぞ知る元祖スタープログラマーで、パソコン雑誌で優れたゲームプログラミングを発表してきた80年代を代表するゲーム業界の著名人だ。これまでアクションゲーム一辺倒だった鈴木氏にとってアドベンチャーゲームのプログラミングは本作『ジーザス』が初チャレンジになる。
グラフィックは眞島真太郎。85年発売の『地球戦士ライーザ』でデビューし、『ポートピア連続殺人事件』のファミコン版パッケージを手掛けたほか、89年に設立したアルテピアッツァ代表取締役としてドラゴンクエストシリーズのグラフィックデザイン、タイトルロゴなどを担当してきた。プロデューサーが強引に発売日を決めて広告を載せてしまった日付に間に合わせるため、2週間缶詰め状態でアニメーションツールも使わず描いたシーンは170枚以上。それなのにメモリオーバーで画面サイズや色調を下げたり、泣く泣く没にしたシーンも多数ある。
BGMの作曲はすぎやまこういち。歌謡曲、CMソング、アニメやドラマの主題歌のほか、『ドラゴンクエスト』など数々の名曲を手掛けた言わずとしれた著名な大作曲家。すぎやま氏が初めてゲームミュージックを手掛けたのが意外にも『ウイングマン2』で、その後すぐ『ドラゴンクエスト』の作曲に取り掛かったそうだ。
ちなみにストーリー冒頭のICカード配り(ゲームの登場人物紹介を兼ねている)で、娯楽室でバルカスにICカードを渡したあと、再び会いに行くと『ドラゴンクエスト』の草原のテーマが流れる。また、コンピューター室でベリーニと話すと芸夢狂人の代表作『スペースマウス』を遊ぶことができる(PC88限定)。
あと、企画は没になってしまったが、セガの『スペースハリアー』みたいな3Dシューティングをストーリーに入れる予定だった。しかし、このままだとゲーム丸々1本作るのと同じ労力がかかってしまうため企画は断念となった。