映画などでも題材にされることが多いパンデミック。現在は医療技術が発達したこともあり、世界的な流行が起こることは稀だ。
しかし、現在でも莫大な死亡者数を出している感染症は世界各地で猛威をふるっている。日本は島国なので海外から感染症が侵入してくる可能性も低く、感染症に対する認識が甘い部分がある。
そこで今回は感染症の恐ろしさを認識してもらうために猛威を振るった感染症をランキング形式で紹介しよう。順位は世界に与えた影響の大きさで付けた。
※エボラ出血熱は潜伏期間が短く、患者がその場から移動できずに発症するので、世界的な感染が起こりにくいので除外。またHIV感染症は適切に投薬すれば一生発症させないこともできるので除外。
5位 ペスト
感染すると皮膚に黒紫色の斑点や腫瘍ができるところから『黒死病』(Black Death)と呼ばれ恐れられた。感染経路はペスト菌を保有しているネズミの血を吸った”ノミ”。このノミに人間が血を吸われると感染してしまう。
14世紀のヨーロッパで大流行し、当時のヨーロッパ全人口の3分の1から3分の2にあたる3000万人が死亡した。
ここまでの大流行が起こった背景としては、当時ヨーロッパでは魔女狩りが行われていたことが挙げられる。魔女とみなされた女性はもちろんのこと、魔女の手先とみなされていた猫も狩りの対象になっていた。その結果、天敵がいなくなったネズミが大量発生したため、ペストが大流行することになった。
魔女狩りがなければ人口の半分が死亡する大惨事とはならなかったかもしれない。
4位 コレラ
コレラはコレラ菌に感染することで発症する感染症。症状は重篤な下痢で、1日に30回ほど下痢が出るため深刻な脱水症状が起こる。アジア型は特に重症化しやすく、何も治療しなければ発症して数時間で死亡してしまう。致死率は70~80%にも上る。下痢は『米のとぎ汁』と言われ、白く濁っているのが特徴だ。
1800年代には全世界で流行し、多数の死者を出した。特にパリでは1日1000人ほどが感染し、そのうちの7割は死亡している。当時のパリの人口が50万人ほどしかいなかったことを考えると相当な大惨事だということが分かる。これほどまでに酷い状況だったので、誰かが飲み水に毒を投げ入れたという噂が民衆に広まり、無関係な人が多数リンチの末、殺されてしまった。
現在は適切な治療(輸液による水分、ミネラル補充)を受ければ死亡率は1%程度だが、医療が発達していない地域では今もなお猛威をふるっている。
3位 マラリア
マラリアは単細胞の寄生虫『マラリア原虫』が寄生することで起こる感染症。主に『ハマダラカ』という種類の蚊に生息しており、この蚊に血を吸われることで感染する。
マラリア原虫は主に人間の幹細胞と赤血球内に寄生する。幹細胞の中である程度成長すると、幹細胞を破壊して血液中に飛び出て赤血球に寄生し増殖する。この際に高熱が出るのだが、この周期が48時間周期のものと72時間周期のものが存在しており、それぞれ三日熱マラリア、四日熱マラリアと呼ばれる。
正確な記録が残っている2000年の統計によると、世界中で3億人が感染し、150万人が1年間に死亡している。現在は治療薬である『キニーネ』が普及しているため、死亡率自体は2000年の約半分に抑えられている。だが、いまだに医療が行き届いていない地域では猛威を振るっているのが現状だ。
2位 天然痘
天然痘(てんねんとう)はかつて世界中で猛威をふるった恐ろしい伝染病。死亡率は約50%にも上る。感染すると体中の皮膚に酷いニキビのようなものが無数に生じ、完治したとしても一生傷跡に苦しめられることになる。このニキビは皮膚だけではなく、体内にも生じ、肺に発生すると呼吸困難で死亡してしまう。
感染力が非常に強く、天然痘患者の皮膚がはがれおちたものの中でも、1年以上感染力を持ったまま生き続ける。
現在はWHOにより全世界で予防接種が行われ、1980年に地球上に患者が1人もいなくなったとする撲滅宣言が出された。人類が根絶した唯一の感染症である。
感染力と死亡率の高さを表した事例として、1663年のアメリカで人口4万人のインディアンの集落で流行し、生存者は数百人しかいなかった。
50年で人口が8000万人から1000万人に減少した国もあるというデータも残っている。
1位 スペイン風邪
スペイン風邪は第一次世界大戦の頃に世界で大流行したインフルエンザの別名。世界中で6億人が感染し、5000万人が死亡するという人類史における最大の被害をもたらした。当時の人口は世界で12億人しかいなかったので約半数が感染した計算になる。戦争や災害など、記録が残っている中で一番の被害者数を出しており、いまだにこれは破られていない。
アメリカではこのせいで棺桶屋(かんおけや)が儲かり、『棺桶成金』または『スペイン風邪成金』と呼ばれる富豪が誕生するほどだった。
スペイン風邪が大流行した原因であるインフルエンザウイルスは鳥インフルエンザウイルスが変化したものだとされている。鳥にしか感染しないはずの鳥インフルエンザウイルスが突然変異を起こし、ヒトに感染できるようになった。このような変異を起こすとウイルスは強くなったり、弱くなったりすることが知られているが、このウイルスの場合は強力な毒性と感染力を持つようになったようだ。
突然変異でいきなり発生したウイルスだったため、免疫を持っている人が全くいなかったのでここまで流行した。
さらに、流行した時期が第一次世界大戦中であったので、人の大移動が頻繁に行われることで感染者数が増え、戦地で十分な医療が受けられないことにより死者数がここまで増えた。
第一次世界大戦の終結が早まった要因の一つとも言われている。