昔は猛毒だった意外な薬ランキング

私たちが生きていく上で欠かすことができなくなってきた医薬品。

医薬品は病気を治したり、辛い症状を無くしてくれるいいものという認識が世の中にはある。実際にそうなのだが、これは研究者たちの努力があってこそだ。投与方法、投与量を間違うと一瞬にして人を死に追いやることができるものも数多くある。

投与量を間違えると悪影響が出るのはどの薬もそうなので、今回は元々猛毒として知られていたものが薬として使われるようになったものでランキングを作ってみた。

ランキングは単純に元々の毒性で順位を付けた。

目次

5位 アトロピン

アトロピンは『チョウセンアサガオ』という花から発見された物質だ。アトロピンは副交感神経を遮断することで効果を発揮する。

致死量は成人で100mg

副交感神経はリラックスした時に働く神経なので、これを遮断されると強制的に興奮した状態になる。興奮した状態になると様々な症状が出る。

  1. 気管支は拡張する。(空気を多く取り入れるため。)
  2. 血管が収縮する。(血圧を上げて、血液を素早く循環させるため。)
  3. 心拍数が増加する。(血液を大量に送り出すため。)

主に2,3の作用により死亡してしまう。アトロピンは毒としてみると致死量も少なく恐ろしい物質に見えるかもしれないが、用量を間違えなければかなり使い勝手がいい薬となる。

腸の蠕動運動が激しいことによる腹痛を抑える。検査の為に瞳孔を開かせたりすることができる。

現在アトロピンが用いられている薬としてはアトロピン点眼液やアトロピン硫酸塩注0.5mgなどがある。

 

4位 ジゴキシン

ジゴキシンは”ジギタリス”という植物のに含まれている成分。ジギタリスは花も奇麗で観賞用として栽培する人も多い。「きれいな花には棘がある。」の言葉通り、この奇麗な花には猛毒がある。

 

中毒症状としては、不整脈、動機などの循環器症状、嘔吐などの消化器症状、頭痛、めまいなどの中枢神経症状がある。

毒性のメカニズムは心筋のNaとCa交換系を阻害することで間接的に細胞内のCa濃度を上昇させることによって心臓の働きを異常に活性化させる。

薬として使用される際も同じ作用を期待して、心不全の患者に投与される。

現在、心不全に対する延命効果が疑問視されており、使用されることが少なくなってきた。

日本で承認されている薬はラニラピッドなどがある。

3位 コノトキシン

コノトキシンは暖かい海に生息するイモガイという種類の貝が持っている毒。基本的にこの毒を小魚を捕まえるために使っているのだが、誤って人間が刺されても命を落としてしまう。

コノトキシンの毒性が起こるメカニズムはイオンチャネルをブロックすることにより発揮される。イオンチャネルは主に神経伝達の際に使われるもので、これをブロックされると神経が働かなくなり、筋肉が麻痺する。呼吸筋まで麻痺すると死に至ってしまう。イモガイの場合は海で泳いでいる時に刺されることが多いのでその前に溺れて死んでしまう。

この神経をブロックする作用を用いて強力な鎮痛剤が作られている。

コノトキシンで死亡してしまうのは呼吸筋などの運動神経が麻痺した場合だが、この薬は痛覚神経を麻痺させることにより鎮痛効果が出る。すでに、癌や帯状疱疹などモルヒネの効果が薄い患者に用いられている。

ただし、コノトキシンはアミノ酸が複数結合しているペプチドであるため、口から投与すると他のたんぱく質同様分解されてしまう。そのため脊髄に直接投与する方法が用いられている。

日本では2017年現在未承認である。

 

2位 マスタードガス(2,2′-硫化ジクロロジエチル)

これは第一次世界大戦で使用された悪名高い毒ガスだ。マスタードガスは糜爛剤(びらんざい)であり、皮膚などに付着するだけで毒性を示す。

名前の由来は皮膚に付着すると、傷口にマスタードを塗られたような激しい痛みが起こるためと言われている。(諸説あり。)

毒性が起こるメカニズムは細胞のDNAを傷害することで皮膚の修復機能を侵す。この作用により皮膚がただれてしまう。

1943年12月2日、イタリアの連合国側の重要補給基地であるバーリ港にドイツ軍は爆撃を仕掛け、輸送船・タンカーを始めとする艦船16隻が沈没した。その中のアメリカ海軍リバティー型輸送船「ジョン・E・ハーヴェイ号」には大量のマスタードガスが積まれており、漏れたマスタードガスがタンカーから出た油に混じったため、救助された連合軍兵士たちは大量に被曝。

翌朝、兵士たちは目や皮膚を侵され、重篤な患者は血圧の低下、末梢血管の血流の急激な減少などを経て白血球値が大幅に減少。結果、被害を受けた617人中83名が死亡した。

引用元:ナイトロジェンマスタード|ウィキペディア (Wikipedia): フリー百科事典

このDNA損傷作用を用いてがんを治療しようと試みられた。

マスタードガスのまま使用すると毒性が強すぎてがん以外の部分にまで作用が出てしまう。そのため、ある程度毒性を弱める工夫を加えてできたのがシクロホスファミドだ。(商品名:エンドキサン 製造販売元:塩野義製薬)

2017年現在も抗がん剤として使用されている。

 

1位 ボツリヌストキシン

ボツリヌストキシンは少しでも科学に興味がある人なら名前は聞いたことがあるはずだ。500gあれば世界中の人間を全て死滅させることができるほどの猛毒だ。

ボツリヌストキシンが毒性を示すメカニズムは末梢神経の障害によるもので、この作用により筋肉が動かなくなる。四肢が麻痺し、最終的に呼吸筋が麻痺して死に至る。

ボツリヌストキシンによる事件で有名なのは、昭和59年に熊本県で起きた”辛子レンコン事件”がある。

辛子レンコン事件

熊本県の工場で製造された辛子レンコンにボツリヌス菌が混入してしまい、全国で36人が中毒を起こしそのうちの11人が死亡してしまった。この事件の影響で辛子レンコンが危険だという噂が流れてしまい、辛子レンコン業界は大打撃を受けた。

この筋肉を麻痺させる作用を用いたのが”ボトックス”という薬だ。主に美容整形の分野で用いられている。ボトックスを顔の筋肉に注射することで顔の筋肉が弛緩し、シワが無くなるというものだ。

他の薬と違い、ボトックスはボツリヌストキシンを致死量の数十分の一~数百分の一を入れているので、用量を間違えばただの猛毒と変わりはない。

 

まとめ

毒が薬として用いられるケースはこのランキングで紹介したものだけではない。これはほんの一部分だ。

薬はほぼ全てが人間の体の中には普通存在しない物質なので、体にとっては異物=毒と言っても過言ではない。本当に体調が悪い時には薬を飲んだ方がいいが、大したことも無いのに薬をもらいに行って飲むことは避けた方がよさそうだ。

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